左官職人集団・浪花組が
怖くなかった話。
今どきの職人世界は、
若手を孫のように育てるらしい。
建設業 魅力発信
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どうも、ライターのニシキドアヤトです。
最近のマイブームは見た悪夢をメモ帳に書き起こすことです。
直近では怖い顔がついたヒマワリに思いっきりヘッドバットを食らわせられる夢を見ましたが、こんなことをメモ帳に書き起こしてたらいつか気が狂うことでしょう。
ところで、みなさんは左官という職業をご存知ですか?
悪夢の話から知らんのに、急に知らん職業の話をするな。全部知らん。と思われた方、すみません。
でも、このコテでなんかねっとりした何かをベチャーッて感じのやつは、どこかで見たことがあるんじゃないでしょうか?
左官とは、石灰や土などを水で練り、それを建設物の壁や床などにコテで塗りながら綺麗に仕上げていく職業のことを指すそうです。
「そうです」というのも僕自身、左官という職業は聞いた覚えもなかったんですが、今回寄稿しているメディア、OSAKAしごとフィールドの方から「大阪に天皇陛下にも認められた左官職人がいる左官集団があるから、取材してきてほしい」という依頼を受け、実際にお話を伺ってきました。
SECTION01
左官の仕事とは?
というわけで今回伺ったのは、大阪ミナミの繁華街にある株式会社浪花組(なにわぐみ)さんです
浪花組……いや、なんか……
そして黒塗りの立て看板も、なんか迫力があります。それにしても……
ここに自転車停めた人、鋼の心臓の持ち主かよ。分かるでしょ。本能が「ここに停めてはいけない」とビンビンに訴えかけてくるでしょ。絶対ここに停めちゃダメでしょ。
と、いつまでも会社の前でやっていては、僕がこの自転車の持ち主と思われかねないので、意を決して中に入ろうと思います。
「ニシキドさん、お待ちしていました! 今回、会社を案内させていただきます、今村です」
あ、なんか……
良かった……。どんな強面の人が出てくるのかと思いきや、めちゃくちゃ腰の低い良い人が出迎えてくれました。
- 今村さん、今日はよろしくお願いします。
- はい。よろしくお願いします。まあ立ち話もなんですから、応接室へご案内しますね。
そうして案内された応接室ですが……
誰?
- あ、それはうちの先々代社長の中川 貢(なかがわ みつぐ)です。建築家・村野藤吾さんとともに数多くの名建築を手掛けてこられた方です。
- なんでグラサンなんですか? めちゃくちゃ怖いじゃないですか。
- もともとが優しい顔だったので、グラサンをかけることによって均衡を保っていたと聞いています。
- そんなことってある?
- 僕、左官という職業を今回はじめて知ったんですけど、建物を作るにあたってどの部分を担う仕事なんでしょうか?
- 建築物の壁や床を土やモルタル(セメントと砂を練ったもの)で塗ったり、タイル貼りやブロック積みなんかもします。その中でも、やはり壁を塗る仕事は左官としての腕が試されるところですね。壁をコテで綺麗に塗って仕上げる左官業は、花形の仕事と言われていました。
- なるほど。
- 一時期は乾式(工場で生産されたパネルや合板なんかを取り付ける工法)での建築がとても多くなり、左官としての仕事自体が減少していた時期もあったんですが、自然志向の方が増えたことや塗り壁自体のメリットが見直されて、再び左官業が注目されるようになってきました。
- 塗り壁のメリットって例えばどんなものがあるんですか?
- 例えば、湿気を防いでダニやカビの繁殖を防いだり、ニオイなんかを吸収したり、室内環境を整える効果があるんですよ。
- おぉ、そんな効果が……。塗り壁って、あのこねた土みたいなやつをガーってするやつですよね。あれ、なんか楽しそうだなぁ。
- あ、でしたらちょうど、新入社員が研修中で塗り壁の練習をしているので、混ざってみますか?
- え?
はい、あれよあれよと言う間に、塗り壁体験をさせていただくことに。作業服もご用意いただき、新入りの囚人みたいな風貌になってしまいました。
- いやあ似合ってますよ。じゃあどうぞ、中に入ってください。
- ありがとうございます。あ!
新入社員の方たちだ~!フレッシュ~!!
- こんにちは~。
- こんにちは!よろしくお願いします!
- あぁ……フレッシュに呑まれる……。
- 指南役は竹内さんにお任せしますね。竹内さんは左官職人で唯一、黄綬褒章を受章しているんですよ。
- お、おうじゅほうしょう? ってなんですか? 凄いんですか?
- 黄綬褒章っていうのは、ひとつの仕事に精通していて、多くの人の模範となる人に、天皇陛下から授与されるものですね。
- え!?天皇陛下に!?それってめちゃくちゃ凄いじゃないですか!?
- めちゃくちゃ凄いです。
冒頭にいっていた天皇陛下にも認められた左官って、竹内さんのことだったのか……。
- 竹内さん、よろしくお願いします。
- はい、よろしくね。じゃあ、一回どんなものか見せますね。
「コテ台に土を乗せて」
「それをコテですくって」
「こうやって塗ります」
- おぉ……! そこまで難しくはなさそうだし気持ちよさそう!
- じゃあ、やってみて。
- はい!
「コテ台に土を乗せて……」
「それをコテですくって……」
- ……。
「すくって……」
- ……。
はぁ~~~~~~~~~~???????????
乗りません。全然乗りません。どういうこと~~~?
- 難しいでしょ。最初はみんな上手く乗せるところからスタートなんですよ。
- 想像の12倍くらい難しい……!
そのあと、竹内さんに教えてもらいながらしばらくしてようやく……
ザッ……!
- やった! すくえた! すくえましたよ!!
- よし! じゃあ壁に塗って!
- はい!!
ベチャッ! ……ボトッ!!
グチャ……
- 僕には無理でした。さよなら。
- なんのなんの、最初から上手くできる人なんていないよ。ゆっくり薄く伸ばしていくイメージを持ちながら、じっくり感覚を掴んでみて。
- うぅ……ありがとうございます。がんばります……。
その後、竹内さんから親切丁寧にご指導いただき、悪戦苦闘すること約20分……
ここまでスムーズに塗れるように!
- いいね! センスあるわ! 左官になれるよ!!
- やったー! おだて上手! 竹内さんが塗ったやつとはまだまだ比べものにならないけれど、これ出来はじめたら凄い楽しいですね! ただ……
- めちゃくちゃ腕力と握力を使うからすごく手が痛い……。
- それも、まぁ慣れやね。
- 徐々に自分がレベルアップしてるこの感覚、なんか久々で嬉しくなるなぁ。
そのあと、竹内さんが見本として普段通りに壁を塗ってくれたんですが……
1分足らずでめちゃくちゃ綺麗に仕上がってました。なんだったんだ僕の20分。返してくれ。
SECTION02
ただまっすぐ塗って壁をつくるだけじゃない。左官って芸術?
- いやぁ、経験したからこそ分かる凄ワザでした。それにしても左官職人って、毎日こんなまっすぐな壁を作り続けてるんですか?
- いや、まっすぐなものばかりじゃないよ。たとえば僕は、自分の家の天井にこんなのをつくったんやけど……
- え、どれですか?
- 写真に写ってる、シャンデリア以外の造形全部やね。
- …え! この天井にくっついてる芸術的なやつを……ということですか?
- そうそう。僕はこういう仕事してるときが一番たのしいよね。これは自分の家に趣味でやったけど、仕事でもそういう依頼はたくさんあるよ。
- 外壁の装飾までも左官の仕事だったんですね…! ていうかシャンデリアだけでこの感じ、竹内さんのお家120%豪邸じゃないすか……。
- そこにおる西村さんなんかも、ようこういう仕事やってるよ。
- え、呼びました?
- 今、左官の仕事がまっすぐな壁を塗るだけじゃないってことを聞いて、しかもこんなすごい造形つくってるし、お家は豪邸だしでびっくりしてるんですけど、西村さんもこういう仕事を?
- あー、そうやね、やりますよ。みんな知ってるやつやと「ピ———————————」(某有名テーマパーク)とか、「ピ———————————」(某有名文化財)の床とか壁とか…
- ええええ!? あの「ピ———————————」を?! ひとつ疑問なんですが、そういう芸術的なセンスというか、それを形にする技術はどうやって磨くんですか?
- う〜ん、いろんな職人さんの技を見て盗んでる感じですかね。例えば、某テーマパークで、割れてる岩を作ったんですけど……
- え! ああいう施設にある岩とかも作ってるんですか!?
- そうですね。やっぱり岩の性質とか、ヒビはどんな感じで入るのかとか、実際に知っておかないとリアルには作れないんですよね。
- たしかに。
- なので、普通に歩いてるときとかも、石とか割れた床を見つけてはジーっと観察して、写真撮って、こんな感じで割れてるんか。と研究したりすることもあります。
- 知識欲がすごいな……。そうやって今もどんどんいろんなイメージの引き出しを増やし続けているわけですね。
- 引き出しも大事やけど、まずは基礎がちゃんとできてないとね。さっき体験してもらった「まっすぐ塗る」ということが出来て初めて、その上にペンキやクロスを貼れたり造形をつけれたりできるんです。下地がきっちりしてないと、その上に貼ったり被せたりしても表情がよくない。まずは基礎・基盤やね。
▲まっすぐ塗るだけじゃなく、凹凸をつけて形や質感もつくってしまう。
- なるほど……。ちなみに西村さんはこのお仕事何年目になられるんですか?
- ちょうど今年が30年目かな……?
- この仕事で難しいのはやっぱりこういった造形をつくることですか?
- それもそうなんですけど、そこにプラスで「工期」が必ずあるところですかね……。時間があるならいくらでも手間かけてより良いものを作れるかもしれない。でも、仕事には必ず期限がありますからね。そこまでにどれだけベストを尽くせるか…
- 「工期」と「クオリティ」の両立が求められるというわけですね……。いやぁ、それにしても西村さんがみんなが知ってるアレもコレも手がけてたなんて。左官の仕事って実は、僕たちが普段目にしてるものを作っているんですね。
- そうですね! たくさんの人が感動してくれるものを作れることもあるし、やりがいのあるええ仕事ですよ! 今の時代、昔と比べて仕事現場はキレイだし、しっかり休憩もとらないといけないし、職人さんたちも歳を重ねて昔よりすっかり丸くなって新入社員を自分の孫のように育ててますよ。(笑)
- 取材直前の印象と全くとちがっていて、困惑してます。
- 新人は10年修行! 見て覚えろ! なんてもう古いですよね。昔では考えられないスピードで、現場に入ることができたり、役職があがったりもするんですよ。お給料もあがってきてる。「東大出身者より稼がせたる!」は僕がいつも新入社員に言ってる言葉です。
- 就職しようかな……。
SECTION03
なんで左官の仕事をやろうと思ったの?楽しさってなに?
耳心地の良い話が湯水のように湧き上がってきたので、ここから先はこの4月に入社した18歳の坂田さんと、今年5年目になる22歳の竹田さんにも話聞いてみようかと思います。
「弊社は良い職場!」と思い込んでいるのは上司だけ。なんてことはよくある話ですからね……!
(左が4月に入社したばかりの坂田さん、右が5年目の竹田さん)
- 浪花組という名前も相まって、最初はビビりまくりながら取材をしていたんですが、みなさん桁違いに優しくて逆に困惑しています。
- やっぱり「現場は怖い」みたいなイメージは持たれがちなんですよね。こういったらアレだけど、みんな普通のおっちゃんですよ。もちろん仕事なので、厳しいときは厳しいですが。それでも喋りやすいし、休みの日は仲良い人たち同士で遊びにいったりもします。
- (どこに遊びにいくんだろう……)
- 僕は4月から入社して今は研修中なんですけど、今のところ思ってたより楽です。もっとバッチバチにいかれるかと思ってました。
- そうですよね。僕、高校卒業して社会人になったとき、入社した会社の宿泊研修みたいなのを受けたんですけど、無駄に厳しい洗脳研修でしたよ。
- はぁ。
- 部屋に入るときとか、挨拶するときとかも全力で「押忍!!!」と叫ばないとダメでしたからね。意味分からん7大用語とか暗記させられて、全力の大声で言い切らないと自分の部屋に戻れないんです。馬鹿みたいでしょ。
- 何の話?
- すみません。新入社員の坂田さんはこの会社に入ってもうすぐ2週間ですが、これまでの感想としてはどうですか?
- 僕たち新入社員は、入社後7日間は安全教育を受けたり現場見学に行ったり、ニシキドさんがやっていた壁塗りを練習します。壁塗りは最初、ぜんぜんできなかったんですが、先輩に教えてもらいながら回数を重ねることによって、どんどんキレイに仕上げれるようになる、それがめちゃくちゃ楽しいですね。もっといろんなことをしたいと、今はワクワクしています。
- フレッシュだなぁ。竹田さんは5年目ということですが、これまで仕事を通じてつらかったこととかありましたか?
- う~ん……それ、よく聞かれるんですけど、僕自身はつらいと感じたことはないんですよね。
- え~?本当ですか?親方の前だからって、無理しなくていいんですよ?
- 無理してないですよ!(笑) まぁ、しんどいことは、そりゃありますよ。夏は暑いし、冬は寒い。朝すごく早い日もある。でも仕事が楽しいと感じることの方が圧倒的に多いんですよね。
- 言い切ったなぁ。
- 現場でがんばって仕事して、自分が手掛けたものがどんどん増えて世に残っていく。それも「ピ———————————」(某有名テーマパーク)とかですからね。特別な達成感ですよ。
- あ~……その気持ちは経験せずとも分かるかもです。
- 竹田さん、関係ないけどめちゃくちゃ歯綺麗ですね。
- 本当に関係ないな。
- 竹田さんは、なぜ左官職人に? というのも、他の職人さんたちに聞いたら、だいたい親父さんや親戚が左官職人で、その姿に憧れて……みたいな感じだったんですよ。
- 僕自身は、この会社を知るまで左官なんて職業は全く聞いたこともありませんでしたね。
- そうなんですか? これも時代の流れなんだろうか……。僕も知らなかったけど。
- 僕は学校を卒業して普通に就活していたんですが、希望していた会社に入れなくて…。どうしようかな~と悩んでたときに、浪花組の営業の人と知り合って紹介してもらったのがきっかけです。当時は左官という仕事自体知らなかったから、イメージもなにもなかったですね。就職できるんなら…くらいの軽い気持ちでした。
- それまで全く左官について無知だった竹田さんが、今では現場の管理を任されるほどに……。本当に全くの未経験な人でも挑戦できる仕事なんですね。
- つらいことはないってさっきは言いましたが、今のところ大きい壁にぶつかってないだけかもしれないですね。今、現場の職長をやらせてもらってるんですが、これからが勝負かなと。しょうもないところを後輩に見せられないので、これからさらに覚悟を持ってやっていかないとと思ってます。
- 竹田さん本当に22歳?人生何週目ですか?
- 一週目ですよ。
- それにしてもしっかりしてるなぁ。僕が22歳のときなんか何してたかも覚えてないくらい薄っぺらい時を歩んでましたよ。
- いや、僕も親方や先輩に育てていただいて今があるので…。
- それだけ浪花組の「若手を育てる力」が強いってことなんですかね……。ちなみに、この仕事を続けていける人ってどんな人だと思います?
- そうですね……。意外に手先が器用とか、そういうことではない気がします。一番大事なのは、朝ちゃんと起きれて、挨拶できて、コミュニケーションがしっかりとれること、これに尽きる気がします。
- 基本中の基本ですね。
- はい、やっぱりその基本が出来ないと現場ではしんどいですね。例えばなんですが、朝寝坊していろいろ言い訳したり嘘ついたりすると、結局それがバレて気まずくなってどんどん来にくくなってそのまま辞めてしまう…とか案外多かったり…。
- ありがちではありますね。
- 「親戚が亡くなって休みます」と、1か月に3回言ってくるケースとか。
- それはもう一周回って嘘が下手すぎるだろ。
- 人間だれでも失敗はあるし、寝坊もするもんです。そういうときに、ちゃんと嘘をつかずに謝ってすぐ仕事に向かう。そういう人としての当たり前はいつでも問われますね。逆にそれさえ出来れば大丈夫ですよ。研修もあるし、現場の人はみんな面倒見が良いので。
- 職人の世界も結局は、コミュニケーションや誠実さがものをいうんだなぁ。お二人とも、お時間いただきありがとうございました!
SECTION04
最後に
▲最後にみなさんで記念撮影
最後までご覧いただきありがとうございます。
職人の世界というのは、個人的に「何十年も続く修行」や「見て覚えろ的な厳しさ」がついて回るようなイメージでした。それも、建設業界ならなおのこと。
しかし、時代が変われば人も仕事も変わります。そこにいち早く気づき、じっくり一人ひとりに向き合い育てていくという方向にシフトしていった浪花組さん。
新入社員の為にしっかり研修期間を設け、親方や現場の人が時間を割いてそこに立ち会い、親睦を深めていく。
▲お昼も一緒にいただきました。
新入社員を育てる環境が整っていない会社も多い中、これってとても心強くないですか?
日本の様々な名立たる建設物の左官工事を請け負ってきた浪花組さん。その高い技術を伝承していき、これからも変わらず日本の美しい建設物を支えていってほしいと思います。
これまでなんとなく見ていた建物をじっくり目を凝らして見てみれば、そこに職人さんたちの高い技術力が見え隠れしているかもしれませんよ。
それでは今回はこの辺で。
ニシキドアヤトでした。
ちなみに僕は慣れない作業をして、後日腕がパンパンになりました。筋トレ始めます。
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